コラム
Column

vol.8:オリンピック・パラリンピックをきっかけに持続可能な社会へ

市民の力でオリンピック・パラリンピックをごみゼロにしよう!

text by 天野 路子 (地球・人間環境フォーラム)

リユーストークupdate: 15-12-16

 2020年オリンピック・パラリンピック東京大会には、期間中に国内外から1,000万人以上の観客らが東京を中心にした会場に押し寄せると予想されています。世界平和を願うスポーツの祭典ですが、開催国がいかに環境にやさしいオリンピックを行ったかを競う場にもなってきました。1994年にオリンピック憲章に環境の項目が盛り込まれ、招致活動の段階から環境に配慮したオリンピック運営がなされるかどうかが、開催地決定のキーポイントにもなってきました。

 東京大会も、オリンピックの開催が「社会の仕組みや人びとの価値観まで変え、持続可能な社会を構築していくこと」(環境省)のきっかけになるよう求められ、さまざまな環境対策が進められることになっています。

 当財団では「リユース食器」という使い捨て容器に替えて何度も洗って使用する食器の普及啓発に取り組んできました。オリンピック大会期間中に出される膨大なごみに注目し、過去の大会で観客に提供された飲食物の容器に着目して調べてみると、じゃがいもを原料にした食器の使用(1994年リレハンメル)、りんごの搾りかすを利用した紙製容器の使用(1998年長野)、植物由来素材のペットボトルを導入し、1,500万本をペットボトルにリサイクル(2012年ロンドン)など、植物由来の素材からなる容器の利用やリサイクルが中心でした。

 2020年東京大会は、「循環共生型社会」の実現がスローガンになっています。過去の大会ではいまだに実施されていないリユースの象徴的な取り組みとして、何度も循環させて使用するリユース食器の導入による、日本ならではのごみゼロの大会運営の実現に向けて、iPledge(アイプレッジ)、地域環境デザイン研究所ecotone、スペースふう、当財団の4団体が中心となり、都や国など関係団体に働きかけを行っています(代表:羽仁カンタ氏(iPledge代表)、副代表:太田航平氏(ecotone代表理事)、永井寛子氏(スペースふう理事長)、事務局:当財団)。

 

さまざまな場所で活躍

ボランティアが外国人観光客にごみの分別方法を案内している様子。使用済みのリユース食器は手前のカゴに入れて回収され、京都市内の大学生協だどで洗浄される。

 iPledgeは1994年より日本最大規模の野外音楽イベントであるフジロック・フェスティバルなどの環境対策を企画・実施してきたA SEED JAPANの活動の一つである「ごみゼロナビゲーション」が2014年に独立した団体です。若者が決意を持って社会を変えていくことを目指し、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。野外イベントなどで来場者参加型の環境対策の企画やボランティアコーディネートなどの運営を実施しており、野外音楽イベントap bank fes’12では3会場7日間で延べ37万個のリユース食器を導入しました。また、ライブハウスへのリユースカップの導入を働きかけており、全国346店舗のライブハウスで利用されています。他にも花見や海の家、「肉フェス」などの食のイベントにおいてもリユース食器導入のコーディネートなどを行っており、今後はさらに利用拡大を図っていく予定です。


 京都にあるecotoneは地域における環境共生型まちづくりの推進を目指し、2005年に設立されたNPOで、2R(リデュース・リユース)に関する環境対策支援を中心とした活動を展開しています。2014年7月には日本三大祭りの一つ、祇園祭の宵山期間中に史上最大規模となる2日間で21万個のリユース食器の導入を果たしました。延べ2,000人のボランティアが参加したほか、日本で初めて露天商組合も参加し、京都市内の事業系一般廃棄物や大型ごみの収集・運搬・処理を担う事業者組合の理事長が実行委員長として指揮を執るなど、露天商も廃棄物事業者も参加する全国初の仕組みとなりました。その結果、来場者数は約62万人と前年より24%(12万人)増える中、全体の廃棄物量は25%(4万2,560㎏)減少し、リユース食器によるごみ減量効果が明らかになりました。

 今年も祇園祭の宵山でリユース食器が導入されました(写真)。台風の影響もありましたが、「この容器、テレビで見て知っている」という声も聞かれ、定着しつつあるようです。日本を代表するお祭りである祇園祭の屋台文化を環境配慮型に替えたことにより、全国のお祭りへの波及が期待されています。

 スペースふうは、山梨県増穂町の女性たち10人が集まり、地域活性化と女性の経済的自立を目指して、1999年に設立された団体で、2002年に全国初のリユース食器レンタル事業を開始しました。日本最大20万個の在庫を持ち、年間100万個のリユース食器をレンタルしています。2004年よりサッカーチーム・ヴァンフォーレ甲府のホームスタジアムで「エコスタジアムプロジェクト」を実施。累計63万8,000個のリユース食器を貸し出しており、スペースふうのレンタルの仕組みを全国各地に展開する「リユース食器ふうネット」の拡大も図っています。


 

リユース食器導入の効果

 リユース食器の普及に取り組む全国のNPOや企業をつないだ「リユース食器ネットワーク」には全国43団体(2015年7月末時点)が参加し、お祭りや各種イベントはもちろん、会議や展示会、結婚式、さらには動物園やオフィスなどでリユース食器を導入しています。10年以上にわたる取り組みの中で、ごみ減量や二酸化炭素排出量の削減のほか、以下のようなさまざまな効果が得られています。

 一つ目は、日本のおもてなしの心を伝えるツールとしての活用です。リユース食器の導入により、売店の店員や回収所のボランティアと利用者の間で「ありがとう」「ごちそうさま」というあいさつが交わされるなど、新たなコミュニケーションが生まれています。

 二つ目は、環境と福祉が連携する仕組みです。社会福祉団体がリユース食器を貸し出していたり、洗浄保管業務を社会福祉施設が担っていたりするケースが多くあり、障害者の雇用促進につながっています。

 三つ目は、災害時の支援物資や備蓄品としての活用です。東日本大震災の被災地にリユース食器3万個を寄贈し、割れずに持ち運びやすい食器として重宝された経験から、リユース食器ネットワークでは全国39団体に9万3,000個のリユース食器を備蓄しています。また、災害支援団体と連携し、災害発生時にリユース食器を被災地に迅速に提供する体制を構築しています。2014年8月の丹波市豪雨災害では兵庫県内の会員から5種類計1,000個のリユース食器が提供され、活用されました。


 

 

リユースを東京のレガシーに

 東京大会が開催される2020年という年は、新たに定められる温室効果ガス削減の目標年が始まる年です。生物多様性を保全するための戦略計画「愛知ターゲット」は2020年までの目標を定めています。気候変動、生物多様性の喪失という人類共通の課題に対する解決策に通じる取り組みを東京大会のレガシー(遺産)として残し、世界に示すことができるのか。世界中の注目が集まるオリンピック・パラリンピックを契機に、リユース食器もレガシーの一部として定着させ、循環共生型社会への転換を目指したいと思います。


 オリンピック・パラリンピック開催まであと5年。まずは東京都内、首都圏はもちろん、日本国内全体でリユース食器の利用場所を増やし、認知度を上げる活動を進めていきたいと考えています。



グローバルネット2015年8月号(一般財団法人地球・人間環境フォーラム発行)『特集/オリンピック・パラリンピックをきっかけに持続可能な社会へ 』より抜粋

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