およそ1,200年の歴史を持つ真夏の京都を彩る祇園祭。日本三大祭の一つに数えられるこの祭は、八坂神社のお祭で、約1カ月間に渡り執り行われている。今年は49年ぶりに「前祭・後祭」の山鉾巡行が復活することでも注目を集めた。一連の行事の中で、とくに前祭の宵山期間(7月15〜16日)は市内中心部が歩行者天国となり、各種屋台や夜店がずらりと並ぶ。この風情ある伝統的な祭を体験しようと訪れる国内外からの見物客は2日間で約72万人(昨年実績:約60万人)を数え、人波に酔うほどだ。その大きな盛り上がりの一方でこれまで課題となってきているのが、見物客数に比例し増え続ける廃棄物やその散乱ごみであった。
祭から出るごみの7割は容器包装
実態として“神事である祇園祭”からは廃棄物はほとんど出ない。昔からの知恵がしっかりと息づいており、無駄な資材などの調達を必要としないためだ。しかし、祇園祭が観光振興などに活用され始めた頃から、短期間でモノが大量に消費され廃棄される現在の消費形態が定着してしまった。これは、“祇園祭に乗じて商売を行う事業者”が増えていったためだ。この課題を少しでも解決しようと市民団体等がボランティアスタッフを募り、部分的に分別回収を行うなどの動きも2000年中頃から行われてきたが、開催規模が大き過ぎるため、散乱ごみ防止の成果には一役買ったが、廃棄物の減量などには結びつかず、昨年は約60tもの焼却を行うに至った。これまでの調査からその約7割は屋台や夜店で販売される使い捨ての包装容器であることがわかっていたが、減量を達成するための方策や推進体制がなく後回しにしてきたことは否めない。
そこでその課題解決に向け立ち上がったのが民間事業者やNPO、廃棄物の排出元である屋台を取りまとめる露店商組合、行政などで構成される「祇園祭ごみゼロ大作戦実行委員会」である。筆者が代表理事を務め、この実行委員会の事務局を担った地域環境デザイン研究所ecotoneでは、これまでリデュース/リユースの2Rの普及とそのマーケットの醸成を図るため、何度も洗って繰り返し使用できるリユース食器システムの開発と導入にこの十数年来努めてきた経緯がある。祇園祭規模でリユース食器を活用した環境対策を実施するためにも、まずは地域における活用の広がりとその一般化を図るべく多方面から取り組みを推進してきた。その一つが京都市との協働の中で生まれたリユース食器助成金制度やエコイベント認証制度の構築である。その甲斐もあり、京都市が主催するイベントは使い捨てからリユース食器にすべて切り替わると同時に、各大学の学園祭や大規模商業イベント、保育園や幼稚園の夏祭、町内での催しなど規模を問わずリユース食器が日常的に選択されるまでに至った。京都市民にはいわば馴染みある取り組みに成長してきているといえるかもしれない。
ごみ処理業者がごみ減量に、そして露天商も巻き込んで
上記の流れから、「これまでの経験やそこで培ったノウハウを活かし祇園祭に挑戦してみよう!」と言うはやすし……。リユース食器を活用した祇園祭での廃棄物減量方策は描けても、これまで全国で導入例のない大規模な催しであることから、実際どのような体制でチャレンジすればよいのか試行錯誤を重ねていた。そこで本取り組みの趣旨を理解し、具体的に道を切り拓き現場を仕切ってくれたのが京都市内の一般廃棄物を収集運搬する許可業者の集まりである京都環境事業協同組合だった。排出された一般廃棄物を収集し、清掃工場やリサイクル施設などに運搬することを生業としているプロたちが、自らごみ減量を行う。通常、ごみが減ったら仕事が少なくなってしまうのではと思うが、この組合はこれからの時代を見据え、京都のために廃棄物を減らしていく提案を率先して実施し始めていた。将来的に廃棄物が減っても強い組合員を育てるためだ。また、京都の一大行事である祇園祭を持続可能なものとするためにも、日常的にまちの美化に努めてきた組合員たちがしっかりと取り組む意義は大きかった。これらの流れから新川耕市理事長に実行委員長をお願いした。
ともに議論し行動する中でも重要なことと認識していたのは、屋台や夜店を取り仕切る五条露店商組合に実行委員会へ参画してもらうことであった。実際に会い、話しを聞くと、自分たちの商売が地域の課題を生み出してしまっていることについてどのように解決すればいいのかと悩みを抱えていた。折衝する中でともに解決に向けた動きを生み出すことに賛同いただけたことは本取り組みにとって大変大きな一歩であった。全国的に露店商へのリユース食器導入事例はなかったものの、宵山行事に出店する臨時屋台すべてが露店商であることから協働が必須だったのである。
ボランティアの活躍で8割回収、焼却ごみ半減を達成
前例のない取り組みを行う実行委員会の体制がようやく整ったのは今年の3月中旬。その4カ月後にはチャレンジが迫っていた。お祭りやイベントでは容器を使い捨てるのが今や当たり前。京都府内では広がりを見せているリユース食器だが、“捨てる”でなく食器を“返却する”という行為を国内外からの見物者がしっかりと行ってくれるのか不安はあった。しかし以前から“自然と食器を返せるしかけや雰囲気づくり”をていねいにデザインしてきたことに自信を持ち、これまで通り、まずリユース食器や資源の分別回収場所をわかりやすくすべく、エコステーションの数を目立つ場所32カ所に限定。また、角皿2種とカップ2種の4種類のリユース食器に限定し、露店商には210店舗対し21万5,000食分のリユース食器の導入を図ることに。散乱ごみ防止なども含めこの取り組みを実現させるため、のべ2,000人のボランティアスタッフが回収と分別のナビゲートにあたれるよう配置した。
人ごみをかき分けながらの活動は想定を超えたものであったが、不測の事態のたびにボランティアスタッフが奮闘。実行委員会が管理していないまちなかのごみ箱も手分けして見回り、約8割の回収に成功した。つまり、昨年まではこのすべてが容器ごみだったと思うと、改めてその量に驚かされる。具体的には本取り組みの結果、42tにまで廃棄物を減量することに成功した。このうち9tはペットボトルやアルミ缶などの資源であったことから、焼却されたのは33tということになる。見物者は昨年に比べ12万人も増えたにもかかわらずだ。資源の分別率はとても高く、ボランティアスタッフの活動のたまものである。さらに散乱ごみはほとんどなかったことは特筆すべき点であろう。エコステーションが全体の雰囲気を醸成し、ポイ捨ての抑制につながったと考えている。神事を執り行っている町内からはこんなにごみのない祇園祭は初めてだと評された。頑張った甲斐がある。
祇園祭ごみゼロ大作戦は一定の成果を挙げることができたが、本活動は1年で終わるものでなく、継続的に実施することが必要だ。その中で、このコストは本来誰が負担すべきものなのかしっかりと議論し、制度設計とあわせて検討されなければ持続可能な取り組みには結びつかないであろう。ボランティアスタッフがいなくとも、露店商や消費者自らが2Rを意識し、そもそもごみを販売しない商品作りを行うような次の社会を描きつつ、京都・祇園から全国の祭やイベントが環境に配慮したものにシフトすることを願っている。日本三大祭の一つがやれたのだから!
グローバルネット2014年10月号(一般財団法人地球・人間環境フォーラム発行)『ホットレポート②』より抜粋